治し支える医療が目標-第7次佐賀保健医療計画-

九州北西部に位置する佐賀県は、福岡・長崎と並び、大陸文化流入の地として機能してきました。また虹の松原等に代表される風光明媚な土地であり、吉野ヶ里遺跡や祐徳稲荷神社といった、歴史を感じさせるスポットも数多くあり、観光地として大きく栄えているのです。そんな佐賀県では、治し支える医療を目標に掲げ、県内の医療を取り巻く環境の整備を始めています。この記事では第7次佐賀県保健医療計画を基に、佐賀県の医療の現状と展望についてご紹介いたします。

第7次佐賀保健医療計画策定の趣旨と現状

現在佐賀県の人口は減少傾向にあります。また高齢者数の爆発的な増加に起因して、人口・疾病構造に大きな変化が生まれました。その結果、2013年4月に策定された第6次佐賀県保険医療計画は、時勢にそぐわないものとなってしまい、計画の見直しが必要とされたのです。

そうした背景の下、新たに策定された第7次佐賀県保健医療計画には、全ての団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題や、後期高齢者の数がピークに達する2035年を見据えた、新しい医療提供体制の構築が盛り込まれています。また第7次計画に先立ち策定された佐賀県地域医療構想では、2025年の医療需要や病床の必要量を推計することで、高品質且つ必要十分な医療提供体制の構築に向けた施策の方向性を示しました。これらの計画を下敷きに、在宅医療と介護領域にスムーズな連携推進を図り、地域包括ケアシステムの構築が目論まれています。

この計画の期間は、2018年度から2023年度までの6年間です。また今後需要が逼迫することが確実視されている、介護領域に関する支援計画との整合性確保のため、2020年度に計画の見直しが行われます。更に医師・看護師といった医療資源の確保状況に沿って、適宜調整を図ることも示されています。

医療的観点から見る佐賀県内の人口と高齢化の現状

佐賀県の人口は2015年10月1日時点で832,832人となっており、2010年に確認された国勢調査人口である849,788人と比較して16,956人減少しています。国立社会保障・人口問題研究所による人口推計では、2025年には774,676人、2035年には713,583人となっており、将来的に人口が大幅に減少する見込みです。その1番の原因が、少子高齢化にあることは明白と言えるでしょう。

医療圏ごとに多少の差異はありますが、北部・西部・南部の65歳以上の人口は2025年まで増加し、その後減少傾向に推移。中部・東部では微増傾向は2040年まで続くと見られています。つまり2025年以降は75歳以上の人口が爆発的に増加するということを示しているのです。現に2015年時点の65歳以上の高齢者人口は、県内の総人口中27.5%を占め、75歳以上の後期高齢者では14.4%を占めています。

そして年少人口は13.9%、生産年齢人口は58.0%となっており、超高齢社会の到来は、もはや避けられない未来となっているのです。出生率に関しても毎年下がり続けており、平均寿命は伸び続けています。人類が未体験の超高齢社会への対応は急務と言えるでしょう。

保険医療計画から見る佐賀県内の保健医療圏と病床数

先ほども少々触れましたが、佐賀県では県内全域を5つのエリアに分割し、それぞれを二次保健医療圏として設定しています。佐賀市・多久市・小城市・神崎市・吉野ヶ里町は中部保健医療圏、鳥栖市・基山町・上峰町・みやき町は東部保健医療圏、唐津市・玄海町は北部保健医療圏、伊万里市・有田町は西部保健医療圏、武雄市・鹿島市・嬉野市・大町町・白石町・江北町・太良町は南部保健医療圏となり、このエリア区分を基本軸として県内の医療提供体制の拡充が図られるのです。

この二次保健医療圏は、住民の生活圏や行政・保健医療団体の区域や医療機関の分布といった諸条件を踏まえ、特殊な医療を除いた一般的な保健医療を十分に提供できるよう勘案されています。また精神医療圏に関しては、これまで佐賀県全体で1つの医療圏とされていたのですが、第7次計画より、二次保健医療圏と同じ5圏域が設定されました。精神医療を必要とする患者の、爆発的な増加を鑑みた判断と言えるでしょう。

さらに小児医療に関しても、新たに医療圏が設定されることとなりました。基本的には二次医療圏単位で構築されることとなりますが、小児専門医療や入院を要する小児救急医療について、佐賀県内で3つの小児医療圏が設定されます。エリアは「中部+東部」医療圏・「北部+西部」医療圏・「南部」医療圏となり、近年頓に進む小児科縮小への当然の対応と言えるでしょう。

また佐賀県全域における既存病床数は、精神病床・感染症病床・結核病床を除き、全ての保健医療圏で基準病床数を大きく上回っています。第7次計画において設定されている、5圏域における基準病床数は7,618床。それに対し既存病床数は10,806床となっており、佐賀県医療審議会の議決を受けた診療所を除き、新たな病床を設置することはできません。

5疾病の医療連携体制の構築

それでは最後に、第7次計画における5疾病の利用連携体制の構築について記載いたしましょう。ここで取り上げる5疾病とは、がん・脳卒中・心血管疾患・糖尿病・精神疾患となります。全国的にも対応が急がれており、それは佐賀県においても例外ではありません。

1.がん

がんに関しては、生活習慣の改善や、がんと関連性の高いウイルスの感染予防が重要視されています。さらなるがん検診の受診率向上に向けた取り組みの推進と、適切ながんに対する知識の啓発を中心とした予防活動だけでなく、抗がん剤を投与して終わり、ただ切り取って終わりといった処置ではなく、集学的治療や緩和ケアを提供できる体制づくりが進んでいます。またがんとの共生を標榜し、緩和ケアから在宅医療まで、患者のライフスタイルを重視した医療を提供できるよう、相談支援・情報提供の充実・就労までをも含めた社会的な支援を充実させる動きが進んでいます。

2.脳卒中

脳卒中は、高血圧や脂質異常症といった、定期的な健診で危険因子を早期発見・早期治療が可能な疾病です。しかし佐賀県においては、特定健康診査の受診率が全国平均よりも低く、受診率向上が大きな課題となっています。これらの諸問題に関しては、適切な情報提供をすることで発症予防に繋げられます。

また県内の各医療圏に機関となる医療機関を確保し、急性期に高品質な医療を提供できるよう取り組みが進んでいます。また回復期から維持期にかけて、要介護状態に至った患者向けのリハビリテーションを提供する体制づくりとして、佐賀県診療録地域連携システム(ピカピカリンク)と脳卒中地域連携パスによる、患者情報の共有を促進し、医療機関同士の連携強化が図られています。また誤嚥性肺炎などの合併症予防のため、医科・歯科の連携強化も重要と言えるでしょう。

3.心筋梗塞等の心血管疾患

心血管疾患に関しても、脳卒中と同様に定期的な検診による危険因子の早期発見が可能です。予防には特定健康検査の受診率向上が鍵となります。また病院前心停止に陥った患者への対応として、早期の医療機関到着を可能とする救急医療の体制づくりや、二次医療圏を超えた各医療機関同士の連携を推進することで対応とされます。また心疾患は慢性化しやすいため、再入院を必要とする場合も多く、日常的な診療を行うかかりつけ医と基幹病院の連携体制を密にし、早期対応を進めることで再入院率を下げる狙いがあります。

4.糖尿病

糖尿病は生活習慣に起因する疾病ですので、食習慣や運動習慣に関する適切な情報を提供し、啓発を進めることで発症を抑制することが可能と考えられています。また特定健康診査の受診率向上を推進し、予防に繋げます。糖尿性腎症に重症化した場合、人工透析が必要となりますが、この処置は患者の生活に大きな負担を与えるため、かかりつけ医による適切な診断を行い、早期の糖尿病専門医や腎臓専門医への受診を勧奨することで対応します。

5.精神疾患

精神疾患への対応として最も重要になるのは、地域包括ケアシステムの構築に他なりません。退院後の受け入れ先の確保が急務と言えるでしょう。その解の1つとして、医療機関主導による支援体制構築が目論まれています。また多様な精神疾患毎に、高品質な専門精神科医療を提供できる体制づくりも推進されています。これらの対応策と同時に、精神疾患に関する正しい知識を啓蒙し、疾病に対する県民の理解を高めていくことも重要です。