保健医療の効率化を推し進める-熊本県地域医療再生計画-
熊本県は九州の中央に位置し、迫力ある景観が魅力的な土地です。世界最大のカルデラを持つ阿蘇山や、120の島々からなる雲仙天草国立公園は観光地としても有名です。本記事では、そんな大自然に囲まれた雄大な熊本県の地域医療再生計画についてご紹介いたします。
熊本県地域医療再生計画の方向性と現状
現在熊本県は他の地域と同じく、少子高齢化に起因する超高齢社会に向けて突き進んでいます。それに伴い疾病構造には変化が起きており、がん・心臓病・脳卒中・糖尿病に代表される生活習慣病の割合が増加しているのです。これらの疾患に対応した医療提供体制の整備は、熊本県地域医療再生計画の骨子の1つと言って良いでしょう。また根本的な医療資源の不足や、地域や診療科において発生している医師の偏在問題解決にも主眼が置かれています。
さらに保険医療機関における患者の情報の電子化・情報化を推進し、十分な保健医療サービスを提供するためのシステムづくりや人材育成が進んでいます。そして、来たる超高齢社会に向けた、各種疾患・疾病の予防・健康寿命の延伸を目的とし、適切で鮮度の高い医療に関する情報を県民に届け、健康に対する意識を啓発・啓蒙することも重要です。そのために熊本県ではかかりつけ医制度に着目し、基幹となる病院や救急医療設備を持つ医療機関と、後方支援を担う医療機関との連携強化を推進します。
基本となる目標
計画を適切に遂行するために、熊本県地域医療再生計画には基本目標が設定されています。「県民全てが生涯を通じ住み慣れた地域で安心して生活を楽しむことができる安全安心な医療体制の整備」を目指し、各種活動が取り行われているのです。
施策の柱と目指す姿
また熊本県地域医療再生計画では、目標達成に向けて3つの施策の柱が打ち立てられています。その柱とは、「安心して暮らせる保健医療体制の整備」・「保健・医療・福祉の総合的な体制づくり」・「医療関係の人材の確保と資質の向上」です。以下では、それぞれの目指すべき姿についてご紹介しましょう。
「安心して暮らせる保健医療体制の整備」について
県民が安心して暮らすためには、疾病・疾患の早期発見と治療が不可欠です。そのためにはかかりつけ医制度の普及と、各医療機関の連携推進は欠かすことのできない要素と言えるでしょう。そして適切な医療機関を選択するために、県民に対する十分な情報の提供が必要です。また救急・災害時における、迅速強固な医療体制の構築を推進し、脳卒中やがん、認知症といった、現代を代表する疾患に応じた適切な医療の提供体制の整備が急務と言えます。
「保健・医療・福祉の総合的な体制づくり」について
総合的な体制構築が完了すれば、県民はその生涯を通じ、保健・医療・福祉において切れ目のない、高品質なサービスを受けることができるようになります。またこれらの取り組み自体が、地域社会との連携を促進し、高齢になっても、障がいがあっても安心して生活を営むことが可能となるのです。
「医療関係の人材の確保と資質の向上」について
現在全国的に叫ばれている、医療資源の枯渇問題を解決し、十分な数の医療従事者が確保されます。その上で医療従事者1人1人の資質向上を目指し、より高品質で効率的な医療サービス提供につなげることができるようになるのです。
医療的観点から見る熊本県内の人口と高齢化の現状
2017年に打ち出された「熊本県地域医療構想」によると、熊本県の人口は2008年を境に減少傾向に転じました。そして熊本県においても他府県と同じく、少子高齢化が加速度的に進み、超高齢社会に突入することとなります。また社人研「日本の地域別将来推計人口」によると、2025年には熊本県の65歳以上人口が554,404人とピークを迎え、65歳以上・75歳以上人口の割合は2040年まで上昇を続けると言われており、75歳以上の単独世帯数の比率は他府県を上回る見込みです。
地域医療再生計画から見る熊本県内の現状と課題
これらの諸問題に対し、現状の対応は不十分と言わざるを得ず、体制整備が求められています。以下では、特に急務とされる保健医療体制の整備と、医療関係の人材確保についてご紹介いたしましょう。
保健医療体制の整備について
現在の保健医療体制が抱える問題の1つとして、疾病・疾患の早期発見が不十分である点が挙げられます。これを解決するために、軽症患者の治療や日常的な健康管理・疾病予防を行う医療機関を「かかりつけ医」として設置し、より高度で専門的な医療を提供する基幹となる病院とで、適切な機能分担ができるよう目論まれています。しかし平成19年に行われた「保健医療に関する意識調査」によると、かかりつけ医を決めている県民は7割以上となっていますが、その内の7割弱は病院をかかりつけ医としていました。
かかりつけ医の定着状況は高いものの、本来の目論見からは外れた結果となっています。その結果、本来高度医療を担当するはずの病院において、軽症患者の対応に追われることとなり、かかりつけ医制度を正しく機能させることができていません。こうした状況を是正し、病期を通じて切れ目のない医療体制を構築するためには、県民に対する適切な医療情報の提供を行う必要があると言えるでしょう。
医療関係の人材の確保と資質の向上
時勢に沿った医療体制の構築と共に急務とされているのは、十分な医療資源の確保に他なりません。熊本県の医療施設に従事する医師は
、平成20年時点では4,450人となっています。人口1,000人あたり2.44人と、医師数の点では全国平均を優に上回り、一見潤沢な医療資源を擁しているように思えます。
しかし現実的には地域・診療科による医師の偏在が発生しており、全ての医療圏に理想的に医師が配置されているわけではありません。今後はそれらの偏在を解消しつつ、医師のキャリ形成に対する支援を推進していくことが求められています。また極端な高齢化に伴う疾病構造の変化に対応するため、医療と介護、福祉の緊密な連携も必要とされており、幅広い知識を持ち、臨機応変な対応を行うことのできる人材の育成が必須と言えるでしょう。
熊本県内では具体的な施策として保健医療体制の整備が行われている
地域医療再生計画では、救急医療体制の整備に関しても言及されています。救急搬送人員の総数は、10年前と比較して4割近く増加しており、需給が逼迫している状態です。しかしながら救急対応を行わない開業医の増加に伴い、一部の救急対応医療機関に患者が集中するという自体が発生しています。特に重症患者への処置を行うべき2次救急担当の病院に軽症患者が集中することで、本来行うべき機能を果たせていない病院が増えているのです。あらためて各医療機関の役割を明確にし、本来あるべき救急医療体制の再構築が必要とされています。その体制再構築には、小児救急医療を含む小児・周産期医療体制の整備も含まれています。