南と北で差が激しい!?-長崎県の医療の現状-

長崎県といえば周囲を海に囲まれており、971もの島嶼部を持つ県としても有名です。その地勢上の特徴からも分かるように、古来より大陸文化の流入地として大きく栄えてきました。その歴史は脈々と受け継がれており、現代においても三菱重工業の長崎造船所を擁しています。

また長崎空港は、台湾・韓国との窓口として大いに機能しており、国際色豊な文化交流の要衝地と言って過言ではないでしょう。本記事では、長崎経済研究所 藤原 章氏執筆の「長崎県における医療の現状と課題」を元に、長崎の医療の現状と今後の課題についてご紹介したいと思います。

長崎県内の医療体制の概要と現状

まず前提として、長崎県はその県下全域を9つの二次保健医療圏に分割しています。その内訳は、長崎・佐世保・県央・県南・県北・五島・上五島・壱岐・対馬です。2008年調査時点では、県内に存在する病院は166ヶ所あり、その3割超にあたる59ヶ所が長崎圏に存在しています。一般診療所に関しても、1,445ヶ所中673ヶ所が長崎圏内に存在しており、全体の45%以上が長崎圏に集中しているのです。

病床数は20,450床あり、県の策定する基準病床数である16,018床を大きく上回っています。医療圏毎に差異はあれど、全ての地域で超過しています。また医師数に関しては3,765人中2,224人が勤務医となっており、全体の6割近くを占めています。地域別では、五島圏・対馬圏が7割と非常に高い割合となっており、県南圏・県北圏では5割前後です。

人口1,000人あたりの医師数で見ると、長崎圏が3.26人と最多になっており、最小の上五島圏の1.10人の約3倍となっています。また県北部は本土内であるにも関わらず、離島圏である五島・壱岐・対馬よりも医師数が少なく、1.27人しか医師が存在していません。半島部を中心に、少なからず医療過疎地域が存在していることが垣間見えます。

1996年から2006年の医師数の推移を確認すると、10年で1割程度増加していますが、診療科目別では外科・内科・産科が減少しています。この診療科数の動きは、病院数が減少傾向にあり、一般診療所は増加傾向にあることを反映しての数値と言えるでしょう。

医療的観点から見る長崎県内の人口と高齢化の現状

また現在長崎県の人口は減少傾向にあり、その原因は少子高齢化と他府県への人口流出と言われています。2025年には65歳以上の高齢者人口が44万人を超え、全体の35%を締めるという推計も出ています。また県南圏および、離島の全ての医療圏では、65歳以上の高齢者人口が4割超、上五島圏では5割となることが予測されており、他府県を超えるスピードで超高齢社会に突入することは間違いないでしょう。適切な医療・介護のサービス連携が医療崩壊を食い止めるキーになると言えそうです。

長崎県内の救急医療の現状

長崎県は離島や半島地域を数多く抱えており、他府県と比較して救急医療体制の整備推進は非常に大きな意味を持ちます。現在は3つの救急体制が設定されており、各医療機関において適切な処置を施せるよう工夫されているのです。比較的軽症な患者の外来診療には初期救急医療体制として長崎市夜間急患センターや在宅当番医制、入院が必要な重症患者には2次救急医療体制として42の病院群輪番制病院と19の救急医療協力病院、重症且つ複数の診療科に渡る重篤患者向けの高度救急救命を実施する3次救急医療体制として、長崎大学医学部・歯学部附属病院と国立病院機構長崎医療センターが対応しています。また夜間・休日であっても迅速な医療サービスを提供できるよう、医療圏とは異なる、行政区域をまたがる11の消防本部毎の救急医療圏を設定し人員の教育・拡充が進められているのです。

長崎県内の妊婦の搬送体制は比較的安定している。

長崎県における搬送人員総数に占める妊婦の割合は0.7%となっており、九州平均である0.9%を下回るものの、転院搬送率は75.8%と九州平均の66.0%を大きく上回っています。しかし、転院搬送回数が3回程度、現場滞在時間は30分未満となっており、全国各所で問題視されている妊婦のたらい回しはほとんどなく、周産期の妊婦の救急搬送に関しては、他府県と比較して安定していると言っていいでしょう。

長崎県内ではヘリコプターを活用した救急患者搬送システムが特徴となっている。

地勢として南北に長く、多数の離島を抱える長崎県では、ドクターヘリを活用した救急搬送が発達しています。2006年12月からは国立病院機構長崎医療センターにヘリポートとヘリが導入されており、他府県に見る県防災ヘリの活用ではない自前設備の拡充が図られています。ドクターヘリは365日中間の救急搬送に対応しており、専門の救急医とフライトナースが常駐しているので、県内各所の救急現場に1時間以内の到着を実現しているのです。また夜間の救急搬送に関しては、海上自衛隊と連携し、長崎医療センターへの搬送を可能としています。